雨が降りしきり、緑のターフが黒く湿り気を帯びていく。競馬場に「重」や「不良」の文字が掲示される時、ファンの間には独特の緊張感と、あるいは「荒れる」という期待感が走ります。 古くから「道悪は荒れる」「先行馬を狙え」といった格言が語り継がれてきましたが、現代の競馬においてもそのセオリーは通用するのでしょうか。 水分を含んだ芝コースが馬たちにどのような影響を与え、レースの結果をどう左右するのか。歴史的な名馬たちが泥だらけになりながら演じてきたドラマの背景には、確かな「傾向」と、時としてそれを覆す「例外」が存在します。 「道悪の芝」を単なる数字だけで見てしまう前に整理したいポイント 一般的に、水分を含んだ芝コース(重・不良馬場)は時計がかかり、パワーとスタミナが要求されると言われます。滑りやすい馬場では末脚が不発に終わりやすく、結果として逃げ・先行馬が有利になるというのが定説です。 しかし、今回に限って言えば、このセオリーをそのまま当てはめるのは危険かもしれません。なぜなら、馬場状態は刻一刻と変化し、コースの内側と外側で芝の傷み具合が異なるケースも多いからです。 例えば、開催が進んで内側の芝が荒れている場合、道悪になるとさらに内側が走りにくくなり、各馬が馬場の良い外側を選んで走ることで、結果的に「外差し」が決まることも珍しくありません。 また、「パワーが必要」という言葉も、欧州血統のような重厚なパワーなのか、それともサンデーサイレンス系が持つ底力のようなスタミナなのか、その定義は状況によって異なります。 単純に「道悪実績があるから買い」ではなく、その実績がどのような状況(コース、相手関係、馬場差)で生まれたものなのかを整理する必要があります。 「道悪の芝」について公式・報道で確認できる主要データ 血統的傾向 : 一般的に、サドラーズウェルズ系やニジンスキー系といった欧州の重厚な血統を持つ馬や、ステイゴールド系(オルフェーヴル、ゴールドシップなど)のようにスタミナと底力に優れたサンデーサイレンス系の血統を持つ馬が、道悪を苦にしない傾向にあります。逆に、米国型のスピード血統は、馬場が悪化するとパフォーマンスを落とすケースが見られます。 騎手の影響 : 馬場状態を瞬時に読み取り、最適なコース取りを選択できるトップジョッキー(例:ルメール騎手、川田騎手など)は、道悪でも信頼度が高くなります。また、馬場が悪化すると各馬の反応が鈍くなるため、積極的に位置を取りに行けるタイプの騎手(例:松山弘平騎手など)も狙い目となることがあります。 外見的特徴 : 一般的に、「繋ぎ(つなぎ)」が立っている馬や、「蹄(ひづめ)」が厚くて深い馬は、滑りやすい馬場でもグリップ力を発揮しやすく、道悪をこなしやすいと言われています。 今回の「道悪の芝」から見えてくる注意点と次の見方 ・ 誤解の解体 : 世間では「前走重馬場で好走したから今回も」と安易に考えがちですが、前走と今回では馬場の含水率やコースの荒れ方が全く違う可能性があります。「道悪巧者」というレッテルを一度解体し、その馬が「どのような質の道悪」を得意としているのかを慎重に見極める必要があります。 ・ 未来への視点 : 今回の道悪レースで、実力馬が馬場に脚を取られて(ノメリ)力を出し切れずに敗れた場合、次走が良馬場であれば人気を落として絶好の狙い目となる可能性があります。 補足: ノメリ : 馬が走っている最中に、馬場に脚を取られてバランスを崩すこと。特に道悪や荒れた馬場で発生しやすい。 洋芝と野芝 : 日本の競馬場は主に野芝が使われていますが、北海道の競馬場などは寒冷地に強い洋芝が使われています。洋芝は野芝よりも時計がかかりやすく、道悪になるとさらにパワーが必要になる傾向があります。